日々のこと

足をまとう(3)足半で整う

勝手に連載している「足をまとう」シリーズ第三回でやっと足半が登場する。これまでの記事はこちら。

下駄をはいて土の上を歩くのが日課になり、それを心地よいと思うようになった。毎日少しの時間でも下駄で散歩している。

下駄で歩いているうちに、雪駄も試してみたいと思うようになった。下駄は街中を歩くには少し目立ちすぎるし、硬い床や階段では少し不便だ(それまでは雪駄が雨の日に履けないことすら知らなかった)。

雪駄の前に気になっていたのが、「足半」というものだ。

医師の稲葉俊郎さんが講演会で使っているとお話されていたものである。形は雪駄の前半分だけのようなもの。かかとが直接地面につくようになっている。そのため外で履くには向かない。(アマゾンのレビューでは足半で外を走っている人もいたけれど、どんな感じなのだろうか)。
かかとが地面についてしまうなんて、なんとも不思議な気分である。正直最初は履物としてそれでいいのか、なんて思った。当時は履物は足を覆うものだと思っていたし、昔の履物を履いていると浮いてしまいそうだと思っていた。

足半の話を稲葉さんから伺ったのは数年前のことなので、少し記憶が曖昧だった。本当に足半という名前だったか、どのような物を履いているのか覚えていなかった。そこで稲葉俊郎さんが足半について語っている記事はないかなと思ってインターネットで検索すると一つだけ記事を見つけた。記事を読んでみると、やはり自宅で足半を履いているということだった。今まで何度もお話を伺って感銘を受けた方なので、わたしも買ってみようと思い至った。その人が愛用しているのには、なんらかの意味があるはずだからだ。

さっそくアマゾンでいくつかの商品を見てみた。どれがいいだろうかと考えあぐねてレビューを見てみると、「かかとが激痛です」というレビューの数々。「そんなに痛いのか、、、、」と少し不安になったが、試してみることにした。アマゾンには様々な会社の足半が販売されているが、私は足半屋と言う?名前のお店にした。HPにいろいろな情報が載っていて、信頼できると思ったからだ。

なぜ足半に興味を持ったのか。もちろん下駄を履いて感じたことや、医師の稲葉さんがおすすめしていたのも主な理由だが、それ以上に足裏への刺激が体にいいと思ったからだ。

例えば台湾は足つぼマッサージで有名だ。都内にも台湾式足つぼマッサージの店はいくつかあるし、台湾にも実際に足つぼマッサージの店がたくさんあった。イッテQという人気テレビ番組で司会の内村光良さんが台湾に行く回があった。その中で足つぼマットの道みたいなものが公園にあって、激痛のあまり歩けないというシーンもあったのを覚えている。当時は笑って見ていたが、今はきっと激痛だったのだろうなと思う。

足の整体は不思議なもので、痛くないときは全く痛くないのに、痛いときは死ぬほど痛い。指で指圧されているだけなのに、刃物を使われているのではと思うときもある。足裏の各所が全身の部位のどこかに該当しているとされている。親指が神経系だったり、胃に該当する部分、腸に該当する部分などである。

私はパソコン作業が多いので、目に該当する足裏のツボが痛くなる。腎臓や胃の調子が悪ければ、その部分が凝り固まっていて、押すと激痛が走る。
足つぼの整体はとても効くと感じているので、数ヶ月前に足つぼを押してくれるマットを購入した。これを使えばスタンディングデスクで作業しているときも、同時に足つぼを刺激できる(痛い)。足の整体や足つぼマットのことなど、足の裏の重要性は常々感じてきた。だからこそ、足半を履いてかかとが痛いというコメントも、むしろ効くかもしれないという期待に変化した。

アマゾンで注文して2日で足半が家に届いた。とてもシンプルな箱で、説明書とか細々と入っていなくて好感が持てた。

特にサイズはなくてメンズかレディースくらいしか別れていなかったと思う。また鼻緒のデザインもお任せなので届く時が大変楽しみであった。少しサイズが心配だったけど、すっぽりと入った(当時は大きく感じたけれど、今では足に馴染んでいる)。
履いてみると、まだ固いのか、土踏まずが痛くなった。でも何日かすればやわらかくなるので、土踏まずの痛みはなくなった。そして、うわさのかかとの痛みだけど、まったくなかった。普段から足裏のケアをしていたからかもしれない。

この足半の良いところはかかとが地面につくことで、かかと重心になることだろう。自分の重心はあまり気にしたことがないかもしれないけれど、意外と大切なものらしい。重心が変われば姿勢が変わってくる。例えばパソコン作業をしているときに、だんだんと猫背になってくる。私もそうだ。しかし、猫背でいると呼吸が浅くなり、どんどんと前のめりになっていく。呼吸が浅くなれば、酸素も取り込めなくなり、集中力が低下する。よく仕事を効率化する系の本で姿勢のことが書いてある。姿勢が良くなれば、呼吸も深くなり、集中力があがるという仕組みだ。

そしてこの足半、かかとがつくことで、姿勢がすっと良くなる。足半を履いてから姿勢をすごく意識するようになった。姿勢がいいほうが体に無理が少ないという感覚がわかってきたからだ。姿勢がよくなれが呼吸もおのずから深くなる。今まで難しかった長く空気を吐く、いわゆるロングブレスというのも長くできるようになってきた。

コロナウイルスの影響で家にいる時間が長くなったからこそ、いかに体を整えるかが大切になってきた。コロナにかからないためにも、まず手洗いうがい、三密を避けるのにくわえて、体調をしっかり整えておく必要がある。家のなかで足半を履いて歩いているだけで、体が整うならばこんなに良いことはないと思う。

姿勢がよくなるのに加えて、これは感覚的なことだけど、心地いいと感じるようになった。スリッパを履いていると、なんか履いている、、という気持ちになるけれど、足半は自然と足の一部のように感じる。下駄と同様に足が覆われていないことや、親指と人差指の間に鼻緒があることも、なにか意味があるのかもしれない。こうやって段々と日本の伝統的な履物への興味がムクムクとわいてきた。ついに、浅草の辻屋本店さんで雪駄を購入するに至る。

[追記]この文章を書いてから2ヶ月近くが経過している。その間、家では足半を履き続けているので、そこで気がついたことを記しておく。

私の中で足半はすでに生活の一部になった。朝起きてから履いているし、寝る前まで履いている。足半を履くようになってから、呼吸が深くなった。かかとが地面につくと言う一見不思議な形のおかげで、腰の位置、と言うよりも骨盤の角度が整っていると感じる。骨盤が真っ直ぐになることで、下半身が安定する。下半身が安定すると、呼吸がお腹の下の方まで入ってくることになる。また土台がしっかりしていると、肩甲骨の側まで呼吸を入れることが容易になる。

もう一つはかかとの重心の位置だ。今までは足の重心がどこにあるかなんて気がつかなかったけれど、今はかかとの、しかも少し内側に重心があるとはっきりとわかる。

最後に足の指の感覚が違う。鼻緒と足半を「つかむ」ような感覚が足にはある。ぎゅっと掴んでいる感覚だ。これは足の使い方としていいものかまだわからないけれど、靴では一切感じることができなかった感覚だ。下駄でもあまり気がつかなかった感覚である。下駄は鼻緒があるから同じような「つかむ」感覚があるかもしれないけれど、足半は前半分だからこそ余計に「つかむ」感じが強いのだと思う。足先の感覚があると言えばいいのだろうか。靴で歩いている時は、一枚の板で歩いているような感覚になる。足に指が5本あるのを忘れて、大地を踏み締めていることを忘れる。覆われて感覚が鈍る。そのブロックを解除してくれたのが足半の効用である。

家で履くだけなら自分、もしくは家族の目にしかつかないので、他人の目を気にすることはない。家ではいているだけでいい。スリッパを使うよりもよほど体にいいと思う。

(2020/07/19の文章をもとに修正・加筆を加えたもの)