イベントレポート

2023/05/13 松葉舎レポート 「痛み」について考えていく

4月に新規メンバーを募集して、5月からは数人メンバーが増えました。そのため、自己紹介をお互いにすることが増えています。その自己紹介から、興味や関心に沿って話が展開していくのが松葉舎のよいところです。

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岩渕さんダンサーになった背景と、児玉さんの興味関心について

まず岩渕貞太さんの自己紹介から。岩渕さんは、20歳頃から踊りを始めました。当初は俳優を目指していましたが、自己意識の強さから人前で話すことに困難を感じ、それを身体表現で乗り越えようとしたようです。

その頃、コンテンポラリーダンスが流行しており、先輩の勧めもありコンテンポラリーダンスを始めることになりました。

江本さんの「なぜセリフが出なかったのでしょうか?」という質問には、当時は、いろんなものがフリーズしたとコメント。緊張、自意識が強くて、喉も頭も動いていない。みられていて怖いと感じたそうです。

児玉祐葵さんは23歳の非常勤講師で化学を教えています。自由な時間に神戸市でNPO法人として地域活動を行ない、子供の居場所作りや、お寺での世代間交流の場作り、農家との交流イベントなどを主催。最近は哲学書を多く読んでおり、特に西田幾多郎や山内得立の思想に近いと感じているそうです。

その中でも、特に関心があるのは「痛み」を言葉でラベリングしてしまうことへの疑問。その理解を深めるため、ロゴス的な方法よりもレンマ的な方法に興味を持ち、山内得立さんの『ロゴスとレンマ』という本を読んでいます。

児玉さんにコメントする形で、岩渕さんは舞踏については「痛み」と深い関わりがあり、「悼む」行為でもあると理解していると発言。そこには社会から除外される体や「なもない人」が存在し、彼らとどう踊るかが問われていると語りました。

自己責任とされる時代だからこそ「中国古典で「身体」を読み直す」

続いて岩渕さんの近況報告。今月末から始まるクラスで中国古典を通じて身体を読み直す予定だそうです。最近は安田さんの本を読み直し、複数の老師の本を読み比べています。

【教室詳細】
タイトル:勉強会「中国古典で「身体」を読み直す」

日時:5月16日13:00-15:30

場所:家劇場東京都足立区千住旭町34-10

問い合わせ・予約:teita.iwabuchi@gmail.com

参加費:1,500円

岩渕さんはまた、自己責任や運命を自分で切り開くといった視点が少ない時代の身体感について考える必要性を感じています。自分を後押しし、肯定してくれるような本を読む傾向があると認識しつつ、自分が理解できていると思っていたことは実際には達成できていないと感じるようになったそうです。

また江本さんは現在の社会における自己責任論と宿命論についても議論が展開しました。現代では、自己責任論が強すぎて全てを自分のせいにされる傾向があり、それが反動として宿命論に走る人々を生んでいるとのことです。

岩渕さんは思考の「層」が整理されることでさまざまなことが見えてくると発言。言葉を使う際に同じ層で考えると矛盾が生じることもあるため、思考の層を変えることで解消できることがあるとの意見もありました。

「痛み」をラベリングすることへの批判的研究

児玉祐葵さんはコロナ禍で大学の学生団体に所属しリーダーのポジションにいたことから「説明責任」を感じ、痛みを感じることについて考えるきっかけを得たという話が出されました。特に、「不登校」という言葉に名付けられることで説明責任が果たされるように感じながらも、その名付けが完全な満足感をもたらさないという矛盾を感じています。

また、分類や説明責任が相互に関連しており、名前を付けて分類することで理解した気になるが、それが全てを説明していないという矛盾があるという意見も出されました。

それに対し岩渕さんから、最近読んでいる「ネガティブケイパビリティ」についての話しが。矛盾に時間を与えて「どっちでもいいや」という場所に行けるようにするという意見が出されました。

江本さんはファッションデザイナー・ファッション教育の山縣良和さんの話を引き合いに出し、ファッションでは自分の内側にある傷やフェチズムから新しい人間像を作りあげていくが、そうして作品を外に作りだすことで、自分の抱えた痛みや病と一定の距離を保ちながら対話することができると述べられました。

「痛む体と柔らかな思考」について考えていく

高橋知子さんは野口体操が「痛み」から生まれたと発表。

高橋さんは中学生から慢性的な頭痛に苦しんでいたこと、20代になってもその痛みが改善しなかったことがそのきっかけで、常々その痛みを改善したいと思って、身体に興味を持ったそうです。

野口体操の創始者の野口三千三さんもまた、少し動かすだけで痛みが生じるほどになったとか。それでも痛みが出ない体の動かし方を意識し続けることで、野口体操が生まれたようです。

これに対して江本さんは、松葉舎として「痛む体と柔らかな思考」について考えていきたいとコメント。

きっかけとして高橋さんの研究における「痛み」と「柔らかな身体」はもちろんのこと、最近話題のAIとの関係性からも「痛み」について考え始めたようです。

以前浅草橋で行われた、オフラインイベントではAIの発展によりダンサーの仕事がどう変わるのかについて議論が行われました。そこで観るだけのダンスは消えるかもしれないが、体が感じることなどは重要で、その中で「痛み」が重要な要素だという話に。

児玉さんの「痛みのラベリング」にも触発され、このテーマを考えていきたいとのことです。

最後に京都大学の蓑口睦美特定研究員、佐々真一教授によって発表された「表面張力を無限に大きくする非平衡ゆらぎについて」についてのレクチャーが江本さんからありました。こちらはぜひ以下のプレスリリースをお読みください。

表面張力を無限に大きくする非平衡ゆらぎ

まとめ

2023年5月13日の松葉舎レポートでは、新規メンバーの自己紹介とその経緯、そして「痛み」のラベリングと理解についてのディスカッションが中心に。特に、ダンスと身体表現についての議論や、痛みを感じることについての個々の経験と理解が共有されました。

松葉舎では毎回個人の関心などに応じて話題を展開しながら、それぞれの学びを深めています。興味・関心のある方はぜひ一度こちらのサイトをご覧ください。

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